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現役の茅葺き屋根 広島県安芸郡熊野町

熊野筆の町

筆の里工房内の保存民家
筆の里工房内の保存民家

農閑期の工芸として発展

熊野筆で有名な広島県安芸郡熊野町は、山に囲まれた高原盆地です。
広島駅からバスで約45分。あっという間に山に入り、どんどん高度が上がったかと思うと、片側は山、もう片側は谷という険しい道路がつづき、峠をくねくねと楽しむことができます。ほんの数分間は「山の中、街灯もなさそう」という状態ですが、すぐに開けた土地に出て、あっという間に住宅地となります。
熊野町の入り口には広島市への通勤に便利だからでしょうか、団地やマンションが見られます。新築の分譲地もありました。
しばらく行くと、県道であるバス通りの両側に集落が広がるようなのどかな風景が広がり、家々を山がぐるりと囲んでいます。

バス通りから見えて、最初に目に付く家は保存古民家で、このページの最初の写真に使いました。
木屋祖七旧家(きやそひちきゅうか)といい、築200年の旧家です。現在は町の所有で外観みることができるだけになっています。しかし、いまも人が住んでいる茅葺き屋根が多くみられるということで、訪れてみました。

ここ熊野では、農閑期の工芸として筆作りが発展しました。いまも技術者が多く住み、全国の筆(毛筆、画筆、化粧)生産量80%以上を占めています。 かつては京都などに行商に行き、帰ってくるときに材料を仕入れていたそうで、熊野では材料となる竹や動物の毛が特産というわけではありません。現在は外国からの輸入や、国内の竹の産地から取り寄せているということです。
バス停から徒歩20分の高台に筆の里工房というミュージアム兼イベントセンターがあり、筆の歴史や豊富な種類の筆を展示しています。 徒歩20分といっても上り坂なので、車で行くのが普通らしく、バス停のそばで道を聞くと、「歩いていくの?タクシー呼んだほうがいいよ」と戸惑われてしまいました。 自分で作れるアトリエや、屋内に熊野の茅葺き屋根の民家を再生したものがあり、そこでは技術者の方が実際に筆を作って実演されていました。 庭には干ばつ用に作られた大きな池があり、そこから眺める熊野町は現代でも、かつての姿を想像させます。 こういう土地に来ると、山の上のほうは空が近いなと実感できます。そして夜空を想像し、星がたくさん見えていいだろうな、と思いました。 訪れたのはお昼ごろでしたが、夕暮れも夜空もきれいな空が池に映える、幻想的な眺めとなることでしょう。
長さ3.7m、重さ400キロを超える世界一の大筆
長さ3.7m、重さ400キロを超える世界一の大筆
技術者による実演
技術者による実演
そこここにカバーされた茅葺き屋根が
そこここにカバーされた茅葺き屋根がみられる
筆の里工房からの眺め
筆の里工房からの眺め
坂面大池
工房前の坂面大池(さかづらおおいけ)

茅葺き屋根の民家を探して

築数百年の家々

バス停のそばで見かけた家は、「諏訪本家(すわもとけ)」築約350年の県下でも5本の指に入るほど古い民家とのことでトタンの覆いをしていてもその形の美しさが伺えます。現在も住んでいらっしゃいます。

「すぐ隣にも茅葺き屋根が建っていたが、最近取り壊した」と聞きました。新しく屋根を葺くにも材料がとれず、近くに職人もいなくなり、今はもう葺き替える風景を見ることがないそうです。
茅葺き屋根の寿命がいくら長くても、早々にみな覆いをしてしてしまったということです。
たしかに覆いをされた茅葺き屋根の形状をした家がそこここにあり、これがみな中に茅葺き屋根を残しているんだと思うと、その数に圧倒されます。
瓦屋根に変えている家でさえも、中の柱や梁は昔のままでしょうから、築何百年という家がごろごろしている町なのです。
諏訪本家・築約350年
諏訪本家(すわもとけ)・築約350年
バス通り沿いに1軒
バス通り沿いに1軒
濡れ縁はだいたいサッシに増築されてる
濡れ縁はだいたいサッシに増築されてる
おくまったところに1軒
おくまったところに1軒
たまたま尋ねた方が茅葺き屋根の民家に暮らしているということでしたが、「痛むばかりだから早く屋根を覆うようにしたほうがいい」いわれていて、どうしようかと思っているとおっしゃっていました。たとえ何十年持つといわれても、職人も材料も個人が手配するのでは大変です。まず材料が地元で取れない、そして職人がいても、一軒、また一軒と町中が屋根を直していった昔と違い、直すべき屋根がなくなってしまっています。
その方のお話ではもっと奥地に行ったほうが屋根は残っているとのことでした。お仕事中だったので案内はしていただけなかったのですが、しばらく探すうちにぽつぽつと、まだ覆いのしていない屋根が見つかりました。
普通の住宅地の中にある茅葺き屋根の趣も楽しく、野中の一軒家のような場所でない分、生活感があるのに、その屋根を見るだけで昔の生活も想像できるという、貴重な経験でした。
カバーされている2軒がみえる
カバーされている2軒がみえる
敷地内に昭和初期風の住宅が建つ
敷地内に昭和初期風の住宅が建つ
増築部分に瓦を足している
増築部分に瓦を足している
丸窓に透かし模様
左上の写真の奥にもう1軒

茅葺き屋根の行く末

茅葺き屋根
茅葺き屋根

保存協会とボランティア

この町で居住している茅葺き屋根が見られるのも、あとどれぐらいでしょうか。
他県には屋根を直すボランティアの集団もいるということですが、職人がいて、材料があって、のことなのです。
屋根に使われる茅とは、地方によって違い、チガヤが一般的ですが、ススキやアシも用いることができるそうです。雑草として駆除されがちなものですが、「ススキやアシなら東京の川沿いや海沿いにたくさんあるのに」と思わずにいられません。海にあるのは野鳥保護用だったりしますが、荒川土手などではかなり広範囲で生息しています。どちらも水辺と平野に関係ありそうです。広島では平野は狭く、海岸沿いは埋め立てられています。この熊野では、関東のような広い川原が近くに無いのです。
筆の材料のようにどこからか持ってくる必要があるのですが、そこを保存協会などが補う知恵をかしてくれれば個人の負担はだいぶ軽減され、瓦屋根にしないでおくこともできるのではないでしょうか。

保存性の問題で、きれいに葺き替えたあとでも、すぐにトタンで囲って完成という形にしてしまう方法があるようですが、茅葺き屋根には、保護され、見せ続ける価値があると思います。
熊野はすでに筆の名産地として名はあるし、広島市から近いため、新たな観光で人を呼ぶような、いわゆる町起こしなどの必要も無さそうです。住宅地としてのこれからの魅力も十分あります。

でも、だからといって茅葺き屋根を推進しなくていいというのはどうでしょうか。残っている家だけでも、取り壊さずに屋根の葺き替えで昔ながらの家を維持できないものでしょうか。
熊野町には本当にたくさんの古民家があります。この全てがトタンの覆いを脱いだと想像するだけで、大変な数です。後世への職の存続にもつながります。
のどかな家、というのは実際に住んでいる方がいるのにおかしな表現かもしれませんが、このような技術、想い、風景そのものも保存しようとしていけば、古き良き時代のあらゆる感覚をも維持できるのではないかと思わずにいられませんでした。
広島県安芸郡熊野町  アクセス方法
広電バス
(郊外バス東方面)熊野線 広島駅から約45分
熊野町役場  
熊野町役場ホームページでは街並み散策コースを紹介しています。

筆の里工房 アクセス方法
〒731-4293
広島県安芸郡熊野町中溝5-17-1
TEL:082-855-3010 FAX:082-855-3011

開館時間: 9時30分から午後5時
休館日:毎週月曜日
入館料:大人500円(小中高生250円)
アクセス:広島駅バスセンターから 広電バスで約45分
         「熊野中筋」下車 徒歩20分
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